関節注射ってどんなもの?
肩、手、股、膝関節など、全身の関節にさまざまな原因で痛みが生じることがあります。それに対する治療として関節内に薬剤を注入する関節注射が行われます。
・ここでは関節注射として主に行われるヒアルロン酸注射と、ステロイド注射について解説します。
・注射の部位は膝関節が多く、以下のガイドラインについても変形性膝関節症(膝の軟骨がすり減って変形し痛みを出す)をターゲットとしたものが多くなっています。他の疾患や、部位については適応が異なる可能性があるので注意してください。
ページコンテンツ
ヒアルロン酸注射
作用・効果
ヒアルロン酸ってどんなもの?
・ヒアルロン酸は関節内滑液の主成分として、関節軟骨の上層に存在します。正常な膝では、2.5〜4 mg/mLの濃度で存在するのに対して、変形性関節症の膝では1〜2 mg/mL に減少しています。これはヒアルロン酸の産生減少と自己分解の増加が起きているためです。
・ヒアルロン酸注射の効果は主に2つのメカニズムに依存していると考えられます。
第一に、関節内の粘性を上げ、潤滑、衝撃吸収および摩擦低減などの関節保護の役割を果たします。
第二に、内因性ヒアルロン酸の分泌を誘導することにより関節の恒常性を再構築します。
治療の推奨度
どのくらい効果が認められてる?
学会等の推奨度比較・まとめ
学会名 | ヒアルロン酸注射の推奨度 |
---|---|
国際変形性関節症研究会(OARSI) | 条件付き推奨 |
米国整形外科学会(AAOS) | 推奨なし |
欧州リウマチ連盟(EULAR) | 使用を推奨 |
王立オーストラリア総合診療医学会(RACGP) | 条件付き推奨 |
米国リウマチ学会/関節炎財団(ACR) | 条件付き推奨 |
日本整形外科学会 | 使用を推奨 |
・Osteoarthritis Research Society International(OARSI)国際ガイドライン(2019年)では、すべてのの変形性膝関節症患者に対してヒアルロン酸注射を条件付きで推奨しています。
・米国整形外科学会(AAOS)のガイドライン(2013年)は変形性膝関節症に対するヒアルロン酸の使用を推奨していません。
・変形性膝関節症の管理に関する2020年EULAR勧告では、「変形性膝関節症の管理におけるヒアルロン酸の有効性を、痛みの軽減と機能改善の両面から支持する証拠がある」として使用が支持されています。
・王立オーストラリア総合診療医学会は、変形性膝関節症および股関節症の管理に関するガイドライン(2018年)の中で、「変形性膝関節症の人々に対してビスコサプリメント注射(ヒアルロン酸注射等のこと)を提供しないことを提案する」とし、条件付きの推奨をしています。
・米国リウマチ学会/関節炎財団(ACR)(2020年)は、他の治療により関節症状が改善しなかった場合に、限定的に使用することを推奨しました。
(・ヒアルロン酸には製品の種類により、その分子量が異なります。低分子量にくらべ高分子量のヒアルロン酸が効果が高いことを示す報告もあります。)
アメリカと日本で推奨度が違う!やっぱり効果がない!?
アメリカの学会では使用が推奨されていない一方で、日本の学会では使用が推奨されています。長期ではステロイド注射と比べて、ヒアルロン酸注射の方が効果があるといった報告や、軽症の変形性関節症に対しては効果あるとした報告が、日本の推奨の根拠となっています。日本ではアメリカと異なり、初期の変形の段階から使用することが多いため、この推奨度の違いがあると考えられます。
副作用
・ヒアルロン酸注射の副作用としては、局所の腫れや筋肉痛などが報告されています。
まとめ
・軽度、中等度の変形には効果があるが、末期では効果がないという報告もある。すべての患者に勧められる治療ではないが、内服での効果が不十分な場合など使用が検討される。
ステロイド注射
作用・効果
ステロイド注射ってどんなもの?
・変形性関節症は退行性関節疾患ですが、ある段階では炎症が発生します。医薬品で使われるステロイド=合成副腎皮質ホルモンは天然の副腎皮質ホルモンと比較して、強い抗炎症作用があるため、変形性関節症の治療に用いられます。
・通常局所麻酔薬と併用します
・ある報告では、ステロイド注射の一種は、関節から完全に吸収されるまで3週間かかり、6週間後に血漿から検出されます。TAの平均滞留時間(MRT)は2.5-4.3日です。
治療の推奨度
学会等の推奨度比較・まとめ
学会名 | ヒアルロン酸注射の推奨度 |
---|---|
国際変形性関節症研究会(OARSI) | 条件付き推奨 |
米国整形外科学会(AAOS) | 推奨なし |
欧州リウマチ連盟(EULAR) | 使用を推奨 |
王立オーストラリア総合診療医学会(RACGP) | 条件付き推奨 |
米国リウマチ学会/関節炎財団(ACR) | 使用を推奨 |
日本整形外科学会 | 条件付き推奨 |
・国際変形性関節症研究会(OARSI)国際ガイドライン(2019年)では、関節内コルチコステロイドの変形性膝関節症への使用が条件付きで推奨(注意深く推奨)されました。短期的な疼痛緩和に効果があるとしています。
・米国整形外科学会(AAOS)(2013)は、現在、膝のステイロイド注射の使用に対する推奨はありません。
・変形性膝関節症の管理に関する欧州リウマチ連盟(EULAR)の勧告(2020年)では、「膝痛の急性増悪、特に浸出液を伴う場合は、長時間作用型ステロイドの関節内注射が適応となる」として、使用を推奨しています。
・王立オーストラリア総合診療医学会(RACGP)は、変形性膝関節症および股関節症の管理に関するガイドライン(2018年)の中で、「変形性膝関節症の一部には短期的な症状緩和があるが、害の可能性があるので注射の繰り返しには注意すべきだ」とし、条件付きで推奨しています。
・American College of Rheumatology/Arthritis Foundation(ACR)は学会ガイドライン(2019年)の中で、軟骨の損失という主な欠点があっても、特定のステロイド製剤を一定の頻度で注射することにより、短期的には良い結果が得られることから、膝、股関節への使用を強く勧めています。
関節内コルチコステロイド注射は、初期のOA患者の臨床症状を有意に緩和することが研究により確認されています。しかし、この症状の緩和は短期間であり、半年後には他の効果は認められないとされます。ある研究では、ほとんどの変形性関節症患者は、ステロイド注射後6週間以内では軽度から中程度の機能改善を示したが、この期間後に患者の症状が大きく改善することはなかったとしています 。
上記ガイドラインの方針はこれらの研究を踏まえたものとなっています。
副作用
・副腎皮質ステロイドの長期使用は、酸化ストレスを増加させ、軟骨細胞の遺伝子発現を変化させます。副腎皮質ステロイドの大量・長期使用は、軟骨破壊などの副作用を引き起こし、変形性関節症の進行を早める原因となります。
まとめ
・副腎皮質ステロイド注射には一時的な鎮痛効果があるが、頻回に使用することは避ける必要がある。